<後編>
軍地:言ったことが流行らなかったりするんです。というのも、パリコレなどのファッションショーで見たことがリアルライフとかけ離れてきていて。
一応、今年はピンクと黄色が流行るというトレンドはあるのですが、それを言ったところで、個人が好きな服を着ていることがもはやトレンドだったりしています。
木村:以前、軍地さんが「ラグジュアリーの定義が変わってきている」「ファッション業界の構図が変わってきていて、ファッションの定義が変わってきている」ということをおっしゃっていて面白いなと思いました。
軍地:sacaiの阿部さんが、「ラグジュアリーとは正しさである」とインタビューでおっしゃっていました。sacaiは日本のデザイナーズブランドで唯一、コムデギャルソンやイッセイミヤケ以降で海外で一番成功しているブランドです。
彼女の、「ものを作るときの正しさとは、真面目にデザインをする、真面目に接客をする、真面目に価格設定をする、真面目にものづくりをすること。そういう正しさがあってこそ、ラグジュアリーであり、高いものや華やかな世界だけがラグジュアリーではない」という言葉がすごく印象的でした。
その正しさ、というのが、ここの最近ファッションの新しいトレンドを作っている人のキーワードになっていると感じています。消費者が正しさをチェックするようになったんです。
木村:隠せなくなっていますよね。隠すと炎上する。これはどの業界でも言えることなんですけど。
軍地:例えば、「ファストファッションの服を作っているバングラデシュにある工場が崩壊し、たくさんの人が亡くなりました」という情報を、みなさんネットで同時期に知りますよね。そうすると、「え、じゃぁこの服ってどうやって作られてるの?」という裏の背景が知れるようになりました。
木村:僕がこの事業をやるときに、徹底的にやろうと思ったことが、正直であることでした。「正直者は最大の戦略である」という言葉があるのですが、インターネット上ではそれが最大の戦略になり、正直で裸に近ければ近いほど、人に信用されるという話があります。
それを徹底的にやろうと思いました。クラウドファンディングをやって目立っていこうとは全然思っていなくて、正直であることを徹底していたら、クラウドファンディングに辿り着きました。
軍地:クラウドファンディングだからといって、必ずしもうまくいくわけではありませんが、伝えようとする意思や、どんな工場で、どうやって作っていくのか、など正直につまびらかに出していこうという姿勢はユーザーの方には伝わる。
みなさんの周りにたくさんお洋服がありますが、背景をきちんと理解した上でものが買える仕組みが、このD2Cモデルなんですよね。
木村:D2C以前の会社のビジネスモデルって、株主と顧客という関係性がありますよね。顧客の方を向くと株主に儲けろと言われ、株主の方を向いていると顧客からそっぽを向けられるという構造。それを僕らの感覚でいうと、全部ガラス張りにすることによって全員から監視されます。
ステークホルダーが上下の関係ではなく、手を繋いで円を描いているというビジネスをやりたいなと思ったんです。
軍地:最近はメルカリなどが出てきて、所有しなくてもいいという流れがあります。所有しなくてもいいときに、わざわざ買いに行くものって何?と思いますよね。そんな時代にD2Cモデルは合っていると思います。
木村:以前、軍地さんが「絵を買う感覚で服を買ってしまう。今はそんな購買動機がほとんど」とおっしゃっていたのが印象的でした。
軍地:私は、こんな素材もう作れないよね、とかこんなプリントもう出会えないよね、と思うと欲しくなるから、着られない服ばかり買っちゃうんですよね。(笑)
作っている人の思いや背景を見ているから、気がつくと着ている服は友達が作っているものがほとんど。それは作っている人の顔が見えるから。応援の気持ちで買っています。
木村:ファッションがどうってことよりも、応援の気持ちや自分のメッセージが消費にあらわれますよね。それはやっぱり、ファンを作るという僕らがやっていることと近いと思っています。
昔は編集者の方々が、ちゃんとブランドのファンになって、ピックアップしてくれて大きくなっていくという流れがあった気がします。
軍地:マスメディアがここ数年効かなくなった理由は、広告主を見ていかないといけなくなったという背景があって。好きなブランドだけをピックアップできなくなったんです。
私は元々、ViViという雑誌にいましたが、当時90年代~2000年代くらいのときは、別に広告主でなくても「圧倒的にこの服が可愛い!」と思ったブランドは10ページくらい特集していました。(笑)自分たちが好きでなければ、いくら広告主でも「それはやりません」と言えました。
しかし、雑誌広告に陰りが見え始めた2005年以降あたりから、広告主から掲載ページでリターンすることが求められるようになり、「このブランドを表紙にするのが今の気分だけど、広告主を優先しなくては」と、忖度してしまう雑誌側の対応も否定できなくなりました。
木村:力関係が変わってきたんですね。「編集者の役割が売るところまでになった」とおっしゃっていましたね。
軍地:これはすべての仕事に言えますが、編集者の仕事は、記事を書いて、まとめて、校了を終えるとだいたい手が離れるんです。だいたいみんな校了が終わったら「終わった!飲みにいこー!」と言っていました。
それが今は、Amazonで1週間前から予約ができるので、1週間前から、売るために自分たちでバズを作らなきゃいけない。自分が取材したときの話をSNSで投稿するなど、とにかく売るところまでが仕事だという考えが重要ですよね。
これはお洋服を作ってらっしゃる方も同じような環境だと思います。
木村:「私はデザインの専門だ」ということが成り立たなくなってますよね。ものの背景はデザインした人が一番わかっているはずなので、それを伝えるところまでするべきです。
そしてSNSでフォロワーを持っているデザイナーさんはやっぱり強い。フォロワーとの信頼だと思うんですよね。どれだけファンが作れているか、という。
軍地:いかに売り込む力が大事かということですよね。最近売れている本は、その後のバズ作りでいかに売り上げを伸ばすかというのが肝になっています。これがSNS社会のポイントでもあるし、売るものはいかに愛情を持って人に伝えるかというところまでなんだなと。
木村:新規にブランドを立ち上げる時、「ダイレクトに思いを伝えて売り込む力」というのがすごくキーワードだと思います。
軍地:実はその言葉は、TOKYO BASEの谷さんからも聞いた言葉です。彼らは接客にすごく力を入れていて、この前TOKYO BASEへ行ったとき、横の方で十人くらいが車座になって真剣に話をされてて。
何をやっているのかと聞いたら、販売スタッフに、取り扱う服のどこを売り込むのか、をレクチャーしてました。彼らが取り扱っているブランドのデザイナーさん自身が、実際に店頭に立たれていることもあるそうです。
そうして売り込む力を磨き、いいものをきちんと勧める。専門用語ですが、プロパー消化率(値下げをしていない価格での買い上げ率)がだいたい7割~8割が普通だとおっしゃっていました。
木村:これはファッション業界ではすごいことですね。
軍地:値段を下げるということは、一方では先に買ってくれたお客さんをがっかりさせることにもなりますから。
そういう嘘をつかないで、いいものをとにかく自分たちが設定した値段で売りきる。その代わり自分がつけた値段を正直に、できるだけ原価をギリギリまであげることが、今のもの売り方だと思いました。
木村:だいたいのブランドは、値引きをする前提で原価を設定してしまうんですよね。そうではないTOKYO BASEはそこが強みですね。僕らも基本的には値段を下げません。
伝える力で、どう皆さんに伝えて、共感していただいて、買っていただくかだと思っています。何を伝えるかや、共感性、伝える力の強さ、これからブランドをやりたい人は、これからを考えるとここから先の時代の消費を作っていけるのではないかと思います。
軍地:D2Cはネット発信なので、やっぱりどうしても点になってしまうところはあります。だから、D2Cブランドをセレクトしたポップアップショップもいいなと思いました。
今、ブランドが淘汰されて様々なモールや百貨店の売り場が空き始めているので、オファーがくるかもしれませんね。
木村:基本的にD2Cブランドは実物が見れないので、D2Cブランドを集めて、そういうイベントや場をたくさん設けていきたいです。
軍地:この流れは世界的な潮流になっていて、止まらないと思います。NYのエバーレーンのお店でも、周りのお店にはあまりお客さんが入っていないのに、エバーレーンだけすごく人が入っていました。
正直、エバーレーンはネットで完結してるのでは?と思いましたが、ネットで買ったけどサイズが違ったり、デニムを実際に試着したかった、という人が来店しているんです。逆転現象です。リアル店舗からではなく、ウェブから始まったからできることです。これはALL YOURSが服を体験できる場所を持っていることと同じことだと思います。
木村:池尻大橋にショールーム兼フィッティングルームがあります。試着するために、他の人は出ていかないといけないような小さいお店ですが、それが2時間待ちになってしまうくらいになって。
1月に移転することになりました。お店の移転も、このイベントも、全部クラウドファンディングで支援いただいた資金で開催できていて、ファンのみなさんに助けられてブランドをやれていてます。
軍地:素敵ですね。D2Cモデルはより人の温かみを感じられるビジネスモデルだと思います。